「2000万円報告書」に書かれていたこと

こんにちは。林FP事務所です。

ここのところ世間で話題になった「2000万円」の報告書は、国会質疑で取り上げられ、各報道機関でも特集され、ネット記事やSNSでも賑わいを見せていました。

「2000万円」という大きな金額が具体的に示されたことで、その数字ばかりが注目され独り歩きすることになり、ついには金融担当大臣が報告書を受け取らない事態になってしまいました。

しかし、この文章の全体をしっかりと読み、どのような事が書かれていたか知っている人はあまりいないのではないでしょうか。

2000万円に係る記述はほんの一部で導入に過ぎず、続きには今後の資産についてどのようなことが問題なのか、どのように考えられているのか、その対策についてのヒントが多く書かれているのです。

そのことについてまとめてみました。

報告書の目的は「年金では足りません」と伝えることではない

まず、この報告書の正式名称ですが、
金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
であり、発行日は令和元年6月3日です。

報告書の「はじめに」を読むと、報告書の目的が明記されています。

書かれているのは、「高齢社会」を迎えていくにあたり、個人や金融サービス提供者が金融資産の形成、管理をどのように考え、行動するのが良いか議論した内容をまとめたものであり、それによって皆の意識を高め、具体的行動につなげていくことが期待されるということです。

つまり、個人や金融サービス提供者に今後の社会情勢の傾向や対応の考え方を伝え、行動を促すことが作成の目的なのです。

初期報道にあったような、年金では老後暮らせなくなる、国民は自助で資金を準備するべきと断定的に述べたいのではありません。

「2000万円」についての誤解

当初報道から数日たつと、2000万円はどこから導き出された数字なのか取り上げたメディアが多くありました。

ですから現段階では「皆が一様に2000万円必要」というのは誤解であると周知されているようにも思われます。

今一度その計算方法をざっとまとめると

  • 総務省統計局の家計調査年報(2017年)の高齢夫婦無職世帯の家計収支によれば、支出から収入をマイナスすると月に5.5万円足りないということになる。
  • そのままの状況で65歳~95歳まで生活すると足りない額は約2000万円になるので、その分は貯蓄からの補填で賄う。

ということですが、計算の根拠は2017年の平均値で、この状況が30年間持続すると仮定した数値です。

現状の統計を用いて強いて算出するとこうなります。
が、それはあくまでも参考数値で目安であるということです。

報告書にも
「この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。」
と書かれている通り、加入している年金制度や年金制度自体の移り変わり、また希望するライフスタイルや住居環境、健康状態等、多くの要因で老後の必要資金は大きく異なってくるのです。

だからこそ「2000万円必要」と鵜呑みにせず、個々が自分の今後の資産状況に意識を向けていくことが望ましく、まずは自分の場合はどうなのかを知ることが重要です。

具体的には、

  • ねんきん定期便をチェックする
  • 退職金の有無やその制度を確認する
  • 老後の生活スタイル(就労や住居、暮らし方)について考える機会を持つ

などの方法があります。

それでも分からなければ、私たちのような専門家に相談するのも一つの手でしょう。

長寿化・少子化と並ぶ高齢社会のもう一つの傾向とは

今回の報告書で明らかになっている「高齢社会」の傾向は、

  • 長寿化
  • 少子化
  • ライフスタイルの多様化

です。そのために個々の状況は様々ではあるが、全体的に※資産寿命を伸ばしていく必要性があるということになります。

※資産寿命とは、「生命寿命」や「健康寿命」と関連して、老後の生活を営んでいくにあたって、これまで形成してきた資産が尽きるまでの期間のこと

そして、報道ではほとんど触れられていない、この報告書に書かれているもう一つの高齢社会の傾向として挙げられているのが

  • 認知症の人が今後増加していくと予想される ということです。

報告書によれば、2012 年の65 歳以上の認知症の人は約462 万人で65 歳以上の約7人に1人とされるが、2025 年には約700 万人前後まで増加すると推計され、65 歳以上の約5人に1人が該当することになるとあり、高齢化に伴って増加が加速していくと考えられていることがわかります。

更には、今後認知症になることは例外的な事ではなく誰にでも起き得ることである、よって備えや適切な対応の重要性についても言及されています。

認知・判断能力の低下によって自由に資産の取引等といった行為に支障ができ、制限もかけられることとなります。

その対策として、個人には取引の簡素化を行ったり、金融面での本人意思を明確にしておくことで問題を回避することを勧めています。

金融サービス提供者には認知能力の衰えがあっても以前のようにサービスを受けられる環境整備が求められます。

最も伝えたいこと・個々人に対して

では今後高齢社会を迎えるに当たって、どのように対応していけばよいのか、報告書には個々人の心構えと金融サービスの在り方、行政や業界団体での環境整備の取り組み状況が書かれています。

ここの部分が本報告書で最も伝えたかったことであり、各々の立場で検討して欲しいことなのです。

個々人に対しては、年代別に対応が書かれています。
多くが引用になりますが、内容をご紹介します。

現役期

長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期

  • 早い時期からの資産形成の有効性を認識する。
  • 生活資金やいざというときに備えた資金については預貯金等により確保しつつ、将来に向けて少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
  • 自らにふさわしいライフプラン・マネープランを検討する。
  • 金融サービス提供者が顧客側の利益を重視しているかという観点から、長期的に取引できる提供者を選ぶ。
リタイヤ期前後

リタイヤ期以降の人生も長期化していることに対応し、金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期

  • 退職金がある場合、情報収集と使途の検討及び退職金を踏まえたライフプラン・マネープランを再検討する。
  • 収支の改善策を実行する。
  • 長い人生を見据えた、中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資等)とその後の計画的な取崩しを実行する。
高齢期

資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期

  • 心身の衰えを見据えてマネープランを見直す(医療費、老人ホーム入居費等)。
  • 認知・判断能力の低下や喪失に備え、取引関係の簡素化など心身の衰えに応じた対応をしやすくする。
  • 金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなったとしても、他者のサポートにより、これまでと同様の金融サービスを利用しやすくしておく。

金融機関に求められること

顧客の資産寿命を延ばしていくための金融サービスのあり方として取り組みを期待することとして、下記の点が挙げられています。

  • 顧客にふさわしいサービスの提供(顧客の状況にあった商品を販売する等)や手数料の明確化、顧客が自らリスクやリターンを判断できるような説明等。
  • サービスに合った適切な対価の説明と請求
  • コンサルティング機能の更なる充実
  • 商品の多様化
  • 顧客の状況を「見える化」できるように推進
  • 認知・判断能力が低下・喪失した者に対する商品・サービスの充実

まとめ

この報告書で大切だと思われることは、文中にある
「今後のライフプラン・マネープランを、遠い未来の話ではなく今現在において必要なこと、「自分ごと」として捉え、考えられるかが重要であり、…」
のなかでの「自分ごととして捉える」という点ではないでしょうか。

自分や家族が将来、高齢社会のなかで生きていくことを自分なりに考え、必要であれば具体的に行動を起こすということです。

この報告書ではそのヒントになるべく将来の「高齢社会」の傾向を冒頭で丁寧に述べていると考えられます。

が、その中の一部の数字が独り歩きしてしまったことは残念なことであり、作成の意図が正しく理解されるようにと願っています。

参照:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」
   総務省統計局 家計調査年報(2017年)

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