日本郵便の信書ビジネス固執にみる根深い問題について。
信書をめぐる議論は以前からありましたが
これに関してクロネコメール便が廃止されるという件について
今日はコメントしてみたいと思います。
よくよく考えてみると、
ヤマト対日本郵便という単純な構図ではなく、
もっと根深いところに問題が潜んでいることが分かります。
ユニバーサルサービスに必要なのは独占ではなくて…
先日、クロネコメール便が廃止されるという件を
こちらのニュース記事で知りました。
早く郵便法を改正しよう…。国民のためにならない。 ヤマト運輸、メール便廃止へ 利用者のリスク回避できず - 朝日新聞デジタル http://t.co/j54FU5551l
— 林 健太郎 (@kabuco_h) 2015, 1月 22
執筆時点で、ヤマト社長からのコメント記事がこちらにもありますので、併せて読んで頂くと理解しやすいかと思います。
ヤマト社長「メール便廃止」の真意を語る規制と戦った「30年信書論争」に決着 NB Online
(2019年現在記事は見れなくなっています)
私事で恐縮なんですが、
随分以前に、親父がゆうパックに
ダイレクトに枝豆をぎっしり詰め込んで
送ってきてくれたことがあり
さすがにたまげた事があります。
ゆうパックにはこんな使いみちもあるのか!
と妙に関心した記憶があるのですが(笑)、
もっと便利に、安くモノを送りたいというニーズは
確かに強いんだろうな、と思います。
今回は信書についてですが、
信書は日本郵便の独占業務として
郵便法に規定されています。
今回、ヤマト運輸がクロネコメール便を廃止したのは
メール便で信書を送ったユーザーも罰せられる危険性があるから、
とのこと。
ユーザーを罰するという時点で、それって国民のための法律なのか?
と首をかしげたくなりますが、そこは百歩譲ったとしても
ユニバーサルサービスを実現するための法として
おかしな部分が存在しているといえます。
というのも、ユニバーサルサービスを実現したいなら
「信書配送に参入する場合、日本全国津々浦々まで配送する義務を負う」
とすれば事足りるのであって、
日本郵便が業務独占しなければならない理由は
特にないからです。
つまり、ユニバーサルサービスの実現と
業務の独占は別々に議論すべき対象だということ。
郵政民営化法でのユニバーサルサービスは郵便貯金や簡保も
含む形で規定されていますが、
貯金や保険が独占業務でないことを鑑みれば、
信書配信がやや特異な状況にあることは理解できるはずです。
「独占業務にしなければ、離島等への配信コストが賄えない!」
という、配信コストの問題は確かに考えなければなりません。
ただ、配信コスト=独占というのはちょっと短絡的で、
配信コストを回収する方法はなにも独占とは限りません。
したがって、やはりユニバーサルサービスと独占化は
少なくとも別々に議論すべき事項です。
さて、以上は僕個人の見解に過ぎませんが
ヤマトはもう少し寛大な見方を示していて
「独占」は別にいいけど、信書の「定義」を
はっきりさせようよ、と提案しています。
ただ、その譲歩した提案すらも郵政側は態度を二転させていて
結局、ユニバーサルサービスという耳障りのいい理念にかこつけて
都合の良い利権を一切手放したくないだけではないか?
と邪推せざるをえないような状況を郵政自ら作ってしまって
いるようです。
となれば、もし国民的議論となったなら
郵政側は守勢に回らざるをえないだろう
と思います。
仮に今回国民的議論に発展しないとしても、
こうした郵政側の優柔不断な態度は国民の目からみてネガティブであり、
今後日本郵便が困ったときに「信書の範囲を拡大する」→民業圧迫という
手荒なカードは切りにくくなるはずです。
用意周到な議論の運び方、
上場前のこのタイミングでの釘の刺し方など
ヤマトの戦い方は、なかなか手強いと思います。
ダテに30年、規制と戦ってきたわけではないですね。
「かつて」はおいしいビジネスだった?信書配信もいまは…
一方の日本郵便としては残念なことに、
信書独占状態でも苦しい経営となっています。
郵便、物流業は2014年3月末決算は黒字を確保したものの、
2015年度の中間決算では赤字。
貯金、保険(かんぽ)の仲介手数料など本業以外(?)の利益が大きいという
苦しい台所事情です。
赤字の原因について、人手不足による人件費高騰などという
もっともらしい理由が述べられていますが、
本質はそこではありません。
信書ビジネスが苦戦しているのは
実はヤマトのせいなどではなくて、
電子メールのせいだということです。
信書というと紙のイメージがありますが、
ほとんどの場合、必要なのは紙本体ではなくて、
その上に書かれている「情報」です。
情報だけなら、電子メールを使えば迅速、低コストで送れる…。
となれば、ユーザーとしてはわざわざ郵便を使う
気持ちにはなれないところでしょう。
もしこのまま信書ビジネスに依存するなら、
- どうしても紙で送らないといけない
- ネットが無くて電子メールでは送れない
というニッチ領域に撤退していかざるをえません。
それは経営者、社員、そして株主にとっても
不本意なことでしょう。
折しも、領収書の電子化を認める規制緩和の議論が始まっています。
いいですね!電子化してもコストはゼロにならないけど、検索性向上とか副次的効果でプラスの可能性あり。クラウド管理や専用スキャナなど、新商品・サービスも期待。 領収書の電子保管、企業に認める 税務規制を緩和 税 :マネー :日本経済新聞 http://t.co/8BzpwlZhz3
— 林 健太郎 (@kabuco_h) 2014, 11月 5
領収書も、立派な信書の一つです。
領収書に限らず、様々なものが電子化されていけば
信書配信ビジネスは、今後ますます
苦しくなっていくのではないでしょうか。
信書配信という古いビジネスからさっさと脱却しないと、
ますます泥沼に入っていってしまう可能性があります。
そしてそのコストは、郵政株主が負うことになります。
まわりまわって、簡保の契約者や国民が負うこともあるでしょう。
(関係あるかどうかわかりませんが、簡保の保険料は高めです。)
実は、ヤマトはこのことを百も承知の上で、
議論をふっかけたのではないか、と
個人的に推察しています。
当のヤマトも「今回の対応の経営に対する影響は軽微」
と言っているわけですから、
彼らは既に(元々?)対信書や電子メールとは
無関係のステージで戦っていると考えて良いと思います。
ヤマトが仕掛けた「信書」議論。
実はヤマトからの
「日本郵便よ、お前はこれからどうするつもりなんだ。もっと頑張れよ」
という、余裕のエールなのかもしれません。