豪ドル、米ドル…「外貨建て保険」の名を借りた投資商品の甘い罠をご存知ですか?
「日本ではマイナス金利で、円で持っていても全然増えませんし、将来インフレになれば目減りしてしまう危険性すらあります。
オーストラリアではなんと◯◯%もの利息が付くのはご存知ですか?
先進国通貨ですから安心感はありますし、老後の資産運用先として大変お勧めですよ。」
もしかしたら、あなたはとある銀行員から、こんな言葉を聞かれたかもしれませんね。
でもそれ、鵜呑みにするのは危険って知ってました?
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外貨建て保険とは?
先日の記事でも書きましたが、僕のところに来る相談(保険の見直し)で、トップクラスで多いのが「外貨建て生命保険」です。
もっというと最近は「豪ドル建て保険」が多くて、「米ドル建て保険」などの新規契約はあまり見た記憶がありません。
(※記事執筆時点の話。まぁ豪にせよ米にせよ、ある1国の通貨建てというところに問題があるのですが…)
で、ここで疑問に思うかもしれませんね。「なんで豪ドルなんだろう?」と。
他の通貨に比べて「表面の金利が高い」から、というのが理由の一つ。
もちろん、世界にはもっと金利の高い通貨もありますが、「トルコリラ建て」とか「南アフリカランド建て」とか言われても「いやそれはちょっとムリ…」となりかねないので、先進諸国という安心感と、その中で最も金利が高いという理由で豪(オーストラリア)ドルが選ばれているのではないかと推測します。
これに「保険」というキーワードを組み合わせて…
舞台は、整いました。
素人を狙った販売
「日本ではマイナス金利で、円で持っていても全然増えませんし、将来インフレになれば目減りしてしまう危険性すらあります。
オーストラリアではなんと◯◯%もの金利が付くのはご存知ですか?先進国通貨ですから安心感はありますし、老後の資産運用先として大変お勧めですよ。」
もしかしたら、あなたはとある銀行員から、こんな言葉を聞かれたかもしれません。
確かに、言っていることは嘘ではありませんし、一見、特に問題があるようにも思えません。
ただし、その内実を知ったら、かなりびっくりするはずです。
商品の裏側
さて。以下の数字は、「例え」ですので、実際には手渡されたパンフレットや、保険証券を見ながら、読んでみてください。
まず、販売手数料。
ここでいう手数料とは、純粋に販売窓口の手数料だけではなく、為替手数料なども含んでいると考えてください。
販売手数料は公表されていませんので、推測するしかありませんが、手がかりはあります。
「解約控除(率)」と書かれた欄をご覧ください。
ここの、1年目の解約控除率を見れば、だいたい手数料は推測できます。
契約しようとしている金額に、この1年目の解約控除率を掛けてみてください。
例えば、1,000万円の契約で、解約控除率が10%なら、100万円です。
実際の手数料はもう少し低く、この60%から80%ぐらいと推測されます。
それが手数料(推測)です。上の例で言えば、60万円から80万円ぐらい、ということですね。
その根拠は
- 通常、支払われた販売手数料が契約者に戻されることはなく、その性質上、1年目の解約控除率に大きく反映されるため(契約後すぐに解約した場合でも、手数料分は確保しないといけない)
- 利回りへのプレミアムから推測される、毎年かかる手数料額
の二つから推定しています。
では次に、利回り。
パンフレットまたはお手元の証券に、「積立利率」と書かれた欄はありますでしょうか。
これが、払い込まれた保険料に対して付くクーポン(利回り)ですが、ここにもトリックがあります。
確かに、国内の利回りに比べれば段違いに高く見えますので、一見、魅力的ですよね。
ですが、例えばここで豪ドル建て保険(満期10年)の場合の「市場」の利回りを確認してみましょう。
こちら。
↓
パンフレットをもらったタイミングまたは購入したタイミングでの、利回りを確認してみてください。
どうでしょうか?
チャートの利回りより、積立利率のほうが小さい値になっているはずです。
これが、プレミアム(販売者の取り分)になります。
実態としては、毎年毎年、このプレミアム分のコストがかかっている計算ですね。
この金利コストを元に大体推測される手数料が、上記の「解約控除x60〜80%程度」、というわけですね。
ちなみになんですが、先に確認した「解約控除率」は経過年数とともにどうなっていますか?
恐らく、徐々に低下していることが多いと思います。
これを見て、「長期契約したらお得なんだ」と考えるのは早計。
解約控除率が下がったとしても、毎年のプレミアム分がありますのでトントンとまではいいませんが、多少得をする程度のはずです。(既に最初にドーンと取られていますので、正確にはその後得をすることはないのですが)
だから、「満期まで持てば解約控除がゼロになって、損はしないよね!」というのは残念ながら完全に誤解というか単純化しすぎた理解です。
その他、市場調整額等の中にコストが紛れ込んでいる可能性もありますが、話がややこしくなりすぎますのでこの辺にしておきます。
どうしても知りたい場合は、債権と金利の価格関係と、それを応用した保険の仕組みについて調べてみてください。
※ こうした債権を利用した商品の場合、金利動向によっては市場調整額で返戻金が当初より大きく目減りする場合もあるので注意してください。
もしかしたら、
「保険料分はお得ですよね?」
と、ちょっと金融に詳しい方なら、そう思うかもしれません。でもこれも、実態としての効果はほぼゼロです。
契約によって変わってきますがこうした外貨建て保険の保険金は「払った分が戻ってくる」という条件も多いです。
この場合保険会社側の追加支払いは、ほとんどありません。だって全額、もともとあなたのお金なのですから…。
せいぜい、取られた手数料分が戻される話ですが、通常の生命保険の保障額、数千万円に比べれば手数料の額なんて非常に小さいわけで、支払うべき保険料もごくわずかです。
(誤解のないように補足しますが、契約者にとってこの手数料は大きいです)
ですので、保険料分のお得は、残念ながら実質ゼロと考えて問題ありません。
どう転んでも金融機関は損しない、巧妙な商品だなと思います。
さて。
ここまでお読みいただいたあなたは、この外貨建て保険を欲しいと思うでしょうか?
もちろん投資の自由の原則に則り、答えはおまかせしますが、残念ながら実態は、契約している人が多いようです。
これがまだ、10億円以上の資産を持つような超富裕層向けの商売なら、まだ笑って済ませる余地もあるというものです。
超富裕層が多少、損をしても、生活には全く支障がないと思いますので。
でも、実態は逆で、苦労した貯めた資産や、退職金、相続等の虎の子資産で購入している場合が多いです。
だから僕は、見るに耐えかねて、こうやって警告を発しているのです。
そもそも、金利が高いとはどういうことなのか?
配当とか、分配金とか、利回りとか…、確実にもらえそうな「イメージ」が皆、大好きですよね。
ちょっと話が発散してしまうのでここでは金利に絞ってお話しますが、そもそも金利が高い通貨とは、どういうことなんでしょうか?
豪ドルで考えると分かりにくいので、仮に日本円で考えてみましょう。
日本円の金利はいまやゼロどころかマイナスになっていますが、これがプラス1%とか2%とか3%とかの状態を想像してみます。
こうした通貨を持つことには、どんなリスクがあるんでしょうか。
国際的にみて、この金利が高い状態というのはそれだけ高い金利を払わなければ買ってもらえない通貨という見方ができます。
国際貿易にどうしても必要で、需要の高い通貨であれば、それほどの利息を約束しなくても、買ってもらえるはずですからね。
では、金利が高い通貨はどういう通貨かというと、リスクを抱えている可能性がある、というのが一つ。
主として通貨の発行主体である国のリスク(いわゆるカントリーリスク)ですね。
通貨は一定以上、流通してもらわないと貿易ができませんから、相手に買ってもらうために金利を高くする、という戦略です。
このリスクが一つ。
もう一つは、(長期的に)インフレしやすいということ。
金利が付くということは、時間の経過とともに「自動的に」お金が増えることを意味します。
分かりやすく極端な例でいうと1,000万円で金利100%なら、1年後は2,000万円になっていますね。
この1,000万円はいわば不労所得なので、気分的には嬉しいわけですが、直接的に何らかの経済活動を伴って価値が増えたわけではありません。
1年前に1,000万円で買えた家を購入するのに同じ値段なら「2つ」買えることになりますが、もしその1年で、経済活動の規模が全く増えていないなら家の供給が追いつかず、単に値札が倍額の2,000万円になります。
つまり金利というのはお金の価値を下げやすいイコール、物価を上昇させやすく、インフレさせる力が働きます。
これが、長期的には通貨安方向への圧力になります。
これが、2つめのリスク。
もちろん金利というのはここで書いたこと以外の要因もたくさん絡んできますので、現実には逆方向に動くといったことも日常茶飯事です。
時間軸が短期か長期かによっても変わりますし、そもそも為替レートは、通貨同士の力関係ですので、1国の事情だけで決まるものでもありません。
ですが、シンプルな理解の出発点として覚えておくと便利です。
要は、金利による利益は為替変動で吹き飛ぶ事が多く、そのリスクも十分あるので、高い利回りのイメージだけで飛びつかないことが大事です。
金融庁が危機感を募らせるのは、ある意味当たり前だと思う
「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位)が満たされているか」
金融庁は最近、こんなことを声高に訴えています。
(関連記事:保険の販売手数料引き下げの決め手となるか?銀行の手数料開示の動きと、賢い保険の選び方。)
金融機関も商売ですので、利益を確保するのは当然ですが、それが本当に顧客のニーズを満たした上での正当な対価なのか、
顧客はそれをきちんと理解しているのか?
顧客本位なのか?ということを金融庁は本気で調べ始め、かつ、対策を立てつつあります。
僕がこの言葉を最初に聞いたときは、「また綺麗事を言って…」と思っていましたが、最近、その考えが変わってきました。
というのも、やっていることが初心者から搾取するかのような商売で、言葉は悪いですが「えげつない」からです。
これ、金融機関も本気で顧客本位を考えなければ、顧客も金融機関も、まずい状態になっていくと思います。
相談の現場に居ると、そのことを本当にひしひしと感じざるを得ません。
だから金融庁が本気で「顧客本位」というのはある意味当たり前だなと、思うようになりました。
結局、本当の意味で顧客本位であることが、金融機関にとっても、契約者にとっても、長期的にメリットのある状態なんだと思います。
個人はどう身を守るべきか?
金融庁が動いているとはいえ、金融機関が本当に顧客本位になるまでは相当な時間がかかるでしょうし、そもそも本当の意味で顧客本位になれるかどうかすら分かりません。
個人としては、金融機関が変わることを前提にはできませんし、またその前提は危険でもあります。
以下、個人としての「身の守り方」をお伝えします。
大きなお金が動くタイミングは、要注意です
特に、ほとんど全てのお金の動きを把握しているのが「銀行」です。
退職金の入金や、相続の発生と実際の相続の流れなど、彼らは何の努力も必要なく、ただ口座資金の流れを追うだけでほとんどのことが分かってしまいます。
こうした情報を利用して、顧客にセールスを掛けるのが彼らのビジネスモデルですが、本来、非常にセンシティブな個人情報である資金の流れを、セールスに利用して良いものかどうかという問題はあります。
百歩譲ってそこは置いておいたとすると、銀行員はかなり手強いセールスパーソンですから、そのことを承知の上で付き合うしかありません。
特に気をつけるべきタイミングは
- 退職時、退職金を受け取ったとき
- 相続が発生、および相続をしたとき
です。
相続では、被相続人(故人)の口座がロックされ、それを解除、相続する手続きが必要ですから、当然銀行もその事実を把握します。
相続の場合は、保険会社、銀行等がタッグを組んで来ますし、精神的に不安定な状態でもあるので、特に要注意です。
「いつも世話になってるから、相続の相談も銀行へ行こう」なんて考えてるなら、カモがネギ背負って漁師のところにいくようなものでしょう。
お金がある状態で金融商品を扱う人に相談すれば、売り込みリスクがあるのは当然です。これは社会人の常識として知っておいてください。
さりげない売り込みを受けたとき、あなたはそれを合理的に避けることが出来ますか?
というか、気付きすらしないかもしれませんね。
銀行対策としては、分散しておくのが有効
単に便利だからという理由で、一つの銀行を「給与振込」「ボーナス振り込み」「退職金」「相続」「投資信託」…と利用していると、全ての資金の流れ、投資行動の情報を全部渡してしまうことになります。
これは、リスク管理上もよろしくありませんので、資金は適度に分散させましょう。
ペイオフにより1銀行につき1000万円までの預金が保護されていますから、分かりやすいのは1行1,000万円を上限に複数の銀行を使うことです。
現状1,000万円以下の資産だという場合でもリスク分散のために、最低2行に分散しておくのが良いと思います。
最近はネット上から簡単に資金移動ができますので、複数行を使い分けるのにそれほど不便はありません。
しかも、マネーフォワードのような一括管理サービスもありますので、資金が分散しても全体を把握するのは簡単です。
(逆に、将来マネーフォワードが余計なセールスを仕掛けてくる可能性は排除できませんので、そこは気を緩めないようにしましょう)
こうしておけば、なんらかのシステム障害でATMが使えないといった場合でも、他の銀行から出金が可能ですからね。
個人としての行動指針は?
普段からこうした対策を講じておくと安心感が高まりますが、それで万全というわけではありません。
どうがんばって予防したとしてもそれでもセールスはかかってきますし、逆に、勘違いして自ら動いてしまう場合だってありえます。
そこで、個人が心がけておくべき行動指針を示しておきます。
最も重要かつ、誰でもできる方法があります。
詳細まで完全に理解できない商品には手を出さないという鉄則です。
当然、相手はいろいろとメリットを述べてきますが、そもそも豪ドル建て保険というものの詳細を初心者が100%理解するのはムリだと思います。
FPですら、ややこしい商品だな、と思うぐらいですから。
ですので、
「なんとなくモヤモヤするな」
とか、
「この専門用語は理解できないな」
といった状態では絶対手を出さないことです。
商品の詳細を完全に理解し、保険以外の金融商品ともきちんと比較して、そのメリットもデメリットも100%把握した上で、購入するのであれば何も問題ありません。
逆に、完全に把握できていない状態で手を出すと、大きなしっぺ返しの可能性が高いよということですね。
まずはこの鉄則を胸に刻んでおけば、よりよい判断ができるはずです。
もしどうしてもこうした運用が気になるようであれば、先にお話した「外国債」を直接購入することを検討してみましょう。
証券会社で扱っており、手数料によっては外貨建て保険よりも良い条件で手に入る可能性があります。
あくまでも外貨ベースでですが、外貨建て保険よりも良い条件で増えていくなら、まずはそちらと比較検討すべきでしょう。
(ただし別の観点から、特定の国の債券を大量に購入することはお勧めしませんが)
「外貨建て保険」は、氷山の一角です。引き続き、注意していきましょう。
※ 上記は一例に基づく見解であり、特定の金融商品を勧誘する意図はありません。金融商品の購入・契約はあくまでもご自身の責任でお願いします。
保険会社や、セールスが悪い?
あなたの「金融知識の少なさ」に便乗したビジネスは、何も外貨建て保険に限りません。
外貨建て保険の知識さえあれば、それで解決しますか?
違いますね。
今は外貨建て保険が流行っていますが、為替や金利等の動向が変われば、商品も猫の目のように変わっていきますから。
情報弱者につけ込んでくるセールスが悪い?
僕は、それも違うと思います。
なぜか。
たしかに、金融庁は客観的に見てフェアとは言い難いセールスに業を煮やし、今の状況を変えようとはしています。
なら、あなたは、世界が変わるまで、待ちますか?
実際に変わるのは、何年先でしょうか。何十年先でしょうか?
それまであなたは、指をくわえて待っているつもりでしょうか。
残念ながら、保険会社やセールスをいくら批判したところで、あなたの状況は何一つ変わらないのです。
大切なのは、あなた自身が学び、お金について情報武装することです。
心配はいりません。僕のメルマガで、お金との戦い方を教えていますので。
昨日から記事を読ませていただいております。
つい数ヶ月前に子供の教育資金として外貨建て生命保険を契約してしまったので、かなりショックを受けております…。
そこで質問なのですが、それでは教育資金はどのようにして貯めるべきなのでしょう?!
学資保険は元本割れをするといわれるし、でも保険はつくからと考えると…うぅん。
為替手数料が発生しない国内債券などの生命保険ならまだ良かったのでしょうか?
先生のお子様にはどのようにしているかも、よろしければ教えていただきたいです!
過去の記事へのコメントで申し訳ないのですが、契約してしまったその後の対処として一般的なご意見をお聞かせ願いたいです。
渡邉さん
こんにちは。
外貨建て生命保険についてお悩みということですね。
ネット上で個別のアドバイスは出来ませんので
ごく一般的な考えをお伝えします。
まず教育資金のようにほぼ確実に必要となる資金を
リスク資産で用意するのは一般に不適切で
預貯金や個人向け国債等安定資産で用意するのが
望ましいです。
必要となる時期までの期間がまだ長いなら
ある程度リスクをとるのも一案でしょう。
ただしこの場合でも外貨建て保険のような商品ですと
途中で合理的な切り替えができませんので
そういう意味でも適切かどうか慎重な検討が必要です。
預貯金等で教育資金を準備してその上で、
家計の収入の柱を失うような万一に備えたいなら
別途コスパの良い生命保険を検討すれば良いでしょう。
契約したその後の対処ということですが
これはさすがにケースバイケースですね。
商品、時期、ライフプランの条件および
契約者の考え方に依存しています。
ちなみにウチはざっくり言えば預貯金です。
ただ、資産全体のリスクを管理していますので
教育資金=預貯金という単純な図式ではないですが。
以上、ご参考になれば幸いです。