確定拠出年金について、世界の動きと日本を比較したレポートが面白い。
本題の前に、ちょっとお知らせ。
先日、日経新聞社から電話取材を受けました。
8月14日発売の「日経ヴェリタス」の
確定拠出年金特集に「専門家のコメント」として
掲載されるそうです。
よかったら、ご購入ください!
さて、老後に向けた資産の準備。
気になりませんか?
公的年金と比較して、
私的年金とも言われる
確定拠出年金(DC)。
世界的に、高齢化の進展による給付金の増加、
低金利化に伴う運用難などを背景に、
確定給付型年金の維持が難しくなっています。
そこで、世界的にも
確定拠出年金(DC)制度の整備が進められ
日本よりも進んでいる国が多数あるようです。
世界に目を向けて、
今後の日本がどうなっていくのか、
またはどうなっていくべきなのでしょうか?
意外?DC先進国のチリ
日本証券経済研究所が発行する
「確定拠出年金(DC)をめぐる世界の動き」が
興味深かったので、主なポイントを
ピックアップしてみます。
1. 加入方法
加入方法なんて、なんでもいいじゃない?
と思われがちですが、そもそも加入してもらえないと
DCの活用が浸透しません。
世界では、
①強制
②自動加入・任意脱退
③任意
の3通りの加入方法があり、当たり前ですが
①、②、③の順で加入率が高くなります。
各国の採用状況は、それぞれ
①チリ、オーストラリア
②イギリス、アメリカ
③日本
といった状況のようで、残念ながら
日本は最も加入率の低い方法となっています。
さて、この加入率は個人にも影響があって、
老後の資産形成の度合いは
「加入年数x拠出率」
によって決まってきます。
もちろん資産配分によって
リターンも異なってきますから
そこも違いがありますが
「平均的な運用をする」と仮定すれば、
あとは加入年数と拠出率です。
加入年数を伸ばすためには
できるだけ早く加入するしかありませんが、
任意加入でモタモタしていると
それだけ加入年数が短くなるわけですね。
強制加入の①は当然問題ありませんが、
個人の自由を尊重するイギリスやアメリカは
折衷案として自動加入・任意脱退としています。
これは行動ファイナンスによる
「人は(将来のための)行動を起こしにくい」
という知見を応用した仕組みで、
まず自動で加入させておいて、
将来のためのことを考えない人(つまり、興味の無い人)は
面倒くさい脱退手続きはしないだろう、という推測に基づくものです。
これはアンケートで「賛成」に◯を付けさせるか、
「反対」に◯を付けさせるかで結果が異なる、
というのと似ていますね。
(「その他」がなければ、
理論的にはどちらも同じになるはずですが)
実際、イギリスのDC脱退率は8%程度と、
当初の予想より低い状態となっていて、
成功と言われています。
2. 拠出率
加入年数と同じく重要なのが、拠出率です。
拠出率とは、給与に対して何%のお金をDCに入金しているか、
ということです。
拠出率 | ||
---|---|---|
現状 | 将来 | |
チリ | 10% | - |
オーストラリア | 9.50% | 12% |
イギリス | 2% | 8% |
アメリカ | 3~6%自動引き上げ、企業のマッチングで9%まで。 | |
日本 | 4% |
加入期間が長く、かつ拠出率が高ければ、
老後の資産もそれだけ増える確率が高まります。
現状でチリは強制加入、かつ拠出率が10%とトップクラスで、
DC先進国といえるでしょう。
話が脱線しますが、
本多静六先生の「私の財産告白」では
「本多式4分の1貯金法」というのがあって、
貯金=通常収入x1/4 + 臨時収入
という計算式で貯金を続けたそうです。
これはチリの拠出率10%の2.5倍以上で、
かなりアグレッシブな貯金額ですが、
ここまでやれば本多静六先生なみの
財産が持てる、ということでしょうか…。
3. 長寿リスクへの対応
もともと、DCが議論されているのには
長寿リスクへの対応が必要だ、
という問題意識があります。
当然、加入期間を長く取り、拠出率を上げれば
それだけ長寿リスクに対応できる可能性も高まります。
でも、加入期間もバラバラ、拠出率もバラバラ、
運用成果もバラバラで、当然、寿命もバラバラ。
こんな状態で、全ての人が長寿リスクに備えられるかというと、
それは難しいといえるでしょう。
そこで、相互扶助の考え方(保険)を取り入れ、
「長期据え置き型終身年金」というものが考えられています。
例えば米国の試算ですが
65歳で加入、80歳〜85歳から終身受取とし
毎年20,000ドルが必要な場合には
- 65歳から受け取るなら277,500ドル
- 85歳から受け取るなら 35,200ドル(上のたった13%ですむ!)
となっており、長寿リスクへの対応策として
有力視されています。
実際、 アメリカでは、税制改革を行い、
「長期据え置き型終身年金」が使える環境を
整えつつあるようです。
僕も、この仕組みは保険本来のメリットが得られる、
非常に合理的な仕組みだと思います。
あとは保険会社が必要以上に営利目的に走らないよう、
競争原理が働けば理想でしょう。
日本の動き
日本も遅れながら、
2017年から個人型DCの制度改正で
加入者が大幅に増えることになります。
改めて日本の個人型DCの制度改正について
簡単にまとめておきます。
- 2017年1月から、現役世代の全ての人が個人型DCに加入できるようになる
- DCの拠出規制単位を月から年へ
- ↓以下は2017年から2年以内に実施
- 従業員100人以下の中小企業向けに「簡易型DC制度」を創設する
- 個人型DCへの小規模事業主掛け金納付制度」を創設する(小規模事業主のマッチング制度)
- その他、DC運用商品の改善、変更など
2017年からの個人型DCの改正については
こちらの記事に詳しく書きましたので、
併せてご覧ください。
↓
https://h-fpo.com/?p=4235
現役世代のほぼ全員が利用可能となりますので
「自分には関係ない」
とは思わないようにしてくださいね!
また、60歳から受取可能ですが、
60歳以降でも加入が可能です。
日本のDC制度も加入者数についてはかなりの改善がはかられそうですが、
拠出率やデフォルト商品など、まだまだ改善点はありそうですね。
まとめ
確定拠出年金(DC)の世界の動きを
日本証券経済研究所のレポートを元に
ポイントでお伝えしました。
必要に迫られる形で、DC制度の拡充が
世界的なトレンドになっています。
一方、世界一の長寿国である日本では
最も進んだDC制度が必要なはずですが、
世界と比較しても、日本のDC制度は
まだ遅れているようです。
ということでまだまだ、DCだけで自分年金を
作れるまでにはなっていませんので、
あと10年ぐらいは、NISAや課税口座を含めた運用を
自分で考えて行う必要がありそうです。
2017年の制度改正を皮切りに、
日本のDC制度も大きく飛躍してほしいですね。